リンク
 ●予定表 ●りかいのサイト ●ポップ辞書 ●「とびら」のサイト(読み物の音声教材があります) ●電子辞書 ●楽天マルチ辞書 ●がほう漢字辞典 ●筆順漢字辞典 ●漢字部首コード ●漢字部首辞典

一課

第1課 日本の地理

読み物 「日本の地理」

 みなさんは日本の四つの大きな島の名前を知っていますか。日本はユーラシア大陸の東にある島国で70%は山です。日本には東京のような、世界によく知られている都市がたくさんありますが、みなさんはどんな都市の名前を聞いたことがありますか。下の地図を見ながら探してみましょう。
 日本の国土は、北海道、本州、四国、九州と呼ばれる四つの大きい島と6000以上の小さい島でできています。全体の大きさは、アメリカの25分の1、オーストラリアの21分の1ぐらいで、ニュージーランドやイギリスと同じぐらいです。
 日本には、四十七の都道府県(一都、一道、二府、四十三県)があります。一都は東京都(首都)、一道は北海道、二府は大阪府と京都府で、その他は、静岡県や広島県のように全部、県です。静岡県はお茶や富士山で有名で、広島県には戦争の恐ろしさと平和の大切さを伝える原爆ドームがあります。
 日本は南北に長い国なので、南と北では気候が大きく違い、沖縄や九州で泳げる時に、北海道では行きが降っていることもあります。だから、日本人が大好きな桜のハナがいつごろ咲くかは、場所によって違います。沖縄では一月の終わりに咲き始めますが、 北海道では五月になってからです。桜の花が咲くと、人々はその木の下でお酒を飲んだり歌を歌ったりして、花見を楽しみます。
 日本には昔からの名所もたくさんあります。例えば、兵庫県にある姫路城は日本で最も美しいと言われているお城で、1993年にユネスコの世界遺産に選ばれました。400年以上前の白い壁が残っていて、建物の形が白鷺という白い鳥が羽を広げて休んでいるように見えるので白鷺城とも呼ばれています。姫路城は昔の映画やドラマを撮影する時によく使われています。
 日本の名所と言えば、温泉も忘れることはできません。日本は火山が多いので、日本中に温泉があります。温泉には、観光やレジャーが目的で行く人が多く、温泉では大きいお風呂に入ったり、おいしい料理を食べたり、浴衣を着たりしてリラックスします。日本人はお風呂に入るのが大好きで、外の景色を見ながら入れる露天風呂は特に人気があります。
 たくさんある温泉の中で、愛媛県松山市にある道後温泉は日本で一番古い温泉で、三千年の歴史があると言われています。『坊ちゃん』や『こころ』という小説を書いた夏目漱石がよく行ったそうで、道後温泉にある旅館の三階には「坊ちゃんの間」という部屋があります。
 みなさんは、日本に行ったらどんなことをしてみたいですか。どこに行ってみたいですか。日本に行く前に日本の地理をよく調べて、楽しい旅行をしてください。そして、お城を見学したり、温泉に入ったりして、楽しい土産話を持って帰ってください。

二課

第2課 日本語のスピーチスタイル」

読み物 「日本語のスピーチスタイル」」

 皆さんはもう敬語は勉強しましたか。家族や友だちと話す時に使うカジュアルスピーチ(くだけた話し方)も習いましたか。日本語にはいろいろなスピーチスタイルがあることは知っていますね。実は、日本語は話す時も書く時も、スタイルがとても複雑でいろいろな決まりや習慣があります。この課ではそれについて勉強してみましょう。

1.スピーチレベル(丁寧さ)の使い分け
 日本語はスピーチレベルがとても大切な言語なので、話す相手によって話し方を変えなければいけないことがあります。例えば、「さようなら」と「失礼します」や、「見せてね」と「見せていただけませんか」など、スピーチレベルの使い分けは日本語を勉強している人にとって最も難しいことの一つだと言われています。スピーチスタイルには、「とてもくだけた話し方」から「とても丁寧な話し方」までいろいろなレベルがありますが、どの部分が違うでしょうか。次の文を見て考えてみましょう。

(1)あいつ、どこ、住んでる?   (男性が使うことが多い)
(2)あの人、どこに住んでるの?  (女性が使うことが多い)
(3)あの人はどこに住んでいますか。
(4)あの方はどちらに住んでいらっしゃいますか。

みなさんは今までに何番の言い方を勉強しましたか。この四つの文を比べると、まず文末に使われている言葉の形で「くだけた話し方」か「丁寧な話し方」かが分かります。でも、違いは文末だけに表れるわけではありません。「どこ」を「どちら」にすれば、もっと丁寧な言い方になります。「あの人」の代わりに「あの方」や「あいつ」と言うこともできます。そして、「どこに住んでるの?」と「い」を言わなかったり、「どこ、住んでるの?」と「に」を落として言ったりすると、もっとくだけた感じになります。自然な話し方で話せるようになるためには、多くの日本人といろいろな場面で話したり、日本の映画やドラマを見て、どんな場面で、どんな人が、どんな相手に、どんな話し方をしているかをよく見て観察するといいでしょう。次のページの「いろいろなスピーチレベル」の表を見て、いろいろな言い方を比べてみてください。


2.男性と女性の話し方の違い
 日本語の小説を読んでいると、話し方でどちらが男性か女性かがすぐに分かることがあります。特にくだけた話し方では、男女の話し方に違いが見られます。次のページの会話は、男女のどちらが話しているか、考えてみてください。


 A「あ〜、お腹、すいたなあ。」
 B「俺も腹減った。この辺にうまいトンカツの店があるんだぜ。食いに行こうか。おごるよ。」
 A「嫌よ、トンカツは。カロリーが高いから。」
 B「なんだ、じゃ、俺、一人で行こうっと。」
 A「あ、待って! その店、おいしいんでしょ。やっぱり、私も行くわ!」
 B「じゃ、今から行くぞ!」

どうですか。言葉の使い方が随分違いますね。文字では分かりませんが、イントネーションもとても違います。友だちや恋人や家族と話す時、男性は自分のことを「僕」とか「俺」と言い、女性はたいてい「私」を使います。最近は男女の差が小さくなっていて、上の例のように、文末に「わ」「わよ」を使う女性や、「ぜ」を使う男性は少なくなっていますが、でも、女性が「俺も腹減った」と言ったり、男性が「いやよ!」と言ったら、びっくりされてしまいます。話し方の差が小さくなっても、使わないほうがいい表現もあるということを知っておいてください。


3.文末の省略と言葉の短縮形
 日本のスピーチスタイルを考える時、文を最後まで言わないスタイルも知っておいたほうがいいでしょう。日本人の会話には下の例のように、「〜けど」や「〜から」や「〜し」などで文を終わらせる言い方が多く見られます。

 「読み方がわからないんですけど・・・」(教えてくれませんか)
 「何回も電話したんですけど、連絡があにので・・・」(困っています)
 「私も忙しいし・・・」(できません)

これは言いにくいことをはっきり言わない言い方です。例えば、パーティーに誘われて断りたい時、「今週の土曜日は都合が悪くて、行けません」と言うより「今週の土曜日は、ちょっと・・・」のようにはっきり言わないほうが相手の気分を悪くしません。「・・・」の部分で、お願いや断りの意味を相手にわかってもらうのです。これは、相手の気持ちを大切にする日本人の考え方が日本語に表れている表現の一つですから、{・・・」が使えるようになると、会話が上手に聞こえます。また話し言葉では、言葉を簡単に短くして言う言い方もよく使われます。例えば、次のような例です。

 「UNESCOというのは、何ですか」⇒「UNESCOって、何ですか」
 「忘れてしまった」⇒「忘れちゃった」
 「飲んでしまう」⇒「飲んじゃう」
 「買っておいた」⇒「買っといた」
 「見せてあげる」⇒「見せたげる」

英語でも"I want to go."が"I wanna go."となったり、"Ask him."が"Ask' m."となったりしますね。こういう言い方は英語ができない外国人には慣れるまで大変です。同じように、日本語の短縮形も使えるようになるためには、時間がかかるのです。

4.文の倒置
 日本語の会話では、省略の他に、文の倒置もよく見られます。

 「ごめん、連絡しなくて」
 「今晩のパーティーには行けないんです。宿題があるので」
 「かさ持ってないんだ。雨、降って来たけど」

上の文では、一番言いたいことを始めに言って、その後で理由や状況を説明しています。このような話し方も日本語の特徴の一つです。この形は「2.男性と女性の話し方の違い」にも例が見られます。2の会話文(42~45ページ)に戻って、どんな例があるか見てみましょう。


5.書き言葉スタイル
 話言葉にいろいろなスタイルがあるように、書き言葉にもいろいろなスタイルがあります。日本語が上手になるためには、書く時にどんなスタイルを使ったらいいかも勉強する必要があります。例えば、携帯電話を使って友だちに短いメッセージを送る時には、その友だちと話す時のようなくだけた表現を使うかもしれません。手紙を書く時は普通「です/ます体」、作文を書く時は「です/ます体」を使うことも「だ体」を使うこともあるでしょう。また、論文を書く場合には「「だ体/である体」を使うことが多いです。書くスタイルは、何を書くか、誰が読むかによって使い分けなくてはいけません。その他、どのスタイルを選ぶかだけでなく、言葉の選び方も大切です。例えば、「だ体/である体」の論文では「すごくおもしろい」とか「とてもおもしろい」ではなくて、「大変興味深い」と書いた方がいいのです。それは「すごい」や「とても」より「大変」の方が、そして「おもしろい」より「興味深い」の方が書き言葉的だからです。書く時には、書くスタイあるに合った書き言葉的表現、そして、話す時には話すスタイルに合った話言葉的表現があることを覚えておいてください。


三課

第3課 日本のテクノロジー

読み物 「人とロボット」
  
 日本はロボットの技術が発達していることで有名だ。ロボットのイベント会場に行くと、似顔絵を描いてくれるロボットや、注文を聞いて飲み物を出してくれるロボット、クモのように天井や壁を歩くことができるロボット、手術をするロボットなどが見られる。すでに自裁に社会で活躍しているロボットもたくさんあって、留守番をしたり、重い物を運んだり、工場で車を作ったりして、人間の代りにいろいろな仕事をしているロボットもある。ロボットと暮らしている人達の話を読んでみよう。

『私の面白い家族』
 私は、今、年を取った人たちが住んでいるケアハウスで暮らしています。同じぐらいの年の友達と一緒に、家族のように生活しています。私が住んでいる所には「パロ」というちょっと面白い家族がいます。ちょっと面白いというのは、パロは実は人間ではなくてロボットだからです。パロはアザラシ型のロボットで、体には白い毛があって、とてもきれいで、触ると気持ちがいいんです。 それに、触ったりほめたりしてやると、手とか足とか首を動かして、とてもかわいい声を出すので、パロの周りにはいつも人がたくさん集まっています。私は動物のアレルギーがあるので、犬や猫を飼ったことはありませんが、パロなら触っても大丈夫です。あっ、でも、パロは私達の大事な家族ですから、ロボットだとは思っていませんよ。パロは世界で最もセラピー効果があるロボットとして、ギネスブックに載っていると聞きました。家族がギネスブックに載っているんですよ。すごいと思いませんか。

『私の犬』
私は犬が大好きです。でも、子供のころ、私達家族はマンションに住んでいて犬を飼うことができませんでした。そこでは動物を飼ってはいけないことになっていたからです。私は「犬が欲しい」と言って泣いて、何度も両親を困らせました。
私が高校の入学試験に合格した時、両親は「おめでとう。子供の時から欲しがっていた犬を買ってあげたよ」と言ってお祝いをくれました。中にはAIBOという犬の形をしたロボットが入っていました。AIBOは世界で初めて作られたペットロボットでした。初めは本当の犬じゃなくてがっかりしたけど、私はすぐAIBOが好きになりました。
AIBOは最初は立つことの他には何もできませんでしたが、すぐに歩くようになって、いろいろなことを覚えていきました。まず、私がつけた「ポチ」という名前と私と両親の顔を覚えました。それから、立ったり歩いたりし始めて、私が言ったことが理解できるようになりました。私は毎日学校から帰ると、ポチと話したり遊んだりしました。ポチは私が家にいない時は、一人で部屋でボールで遊んだり、寝たりしていたようです。大学に入って家を出ることになったときも、ポチと一緒なら寂しくないだろうと思ったので、連れて行きました。  
ポチは三年前に動かなくなってしまったけれど、今も私のそばにはポチがいます。AIBOはもう作られていないそうで残念ですが、これからはもっといろいろなペットロボットが生まれて、人々を楽しませてくれると思います。
<http://www.honda.co.jp/ASIMO/>
<http://robot.watch.impress.co.jp/>
<http://www.business-i.jp/news/robo-page/index.nwc>

上の例のようなロボットは、一緒に住めるペットのようなロボットだが、その他にも、犬の散歩をするとか、ダンスをするとか、楽器を演奏するとか、いろいろなことができる人型ロボットが作られている。それに、まだ人型にはなっていないが、自分で考えたり、学習したりするロボットもあるそうだ。近い将来、私達が人型のロボットと生活して、一緒にテレビを見て笑ったり食事をしたり、友達のように話したりする日が来るかもしれない。もちろん、掃除や洗濯もしてもらえたら、最高だけど…。

四課

第4課 日本のスポーツ

読み物 「スポーツを通して学ぶ心」

現代の日本人は、野球、サッカー、ゴルフ、スキーなど、いろいろなスポーツを楽しんでいる。若い人達だけでなく子供からお年寄りまでスポーツを楽しみ、そして、種類も、海、山、夏、冬のスポーツ、一人でするスポーツ、チームでするスポーツ、健康のためのスポーツなど、何でもある。テレビでも毎日のように、いろいろなスポーツ番組が見られるが、特に代表的なものは野球、サッカー、ゴルフ、テニス、相撲などだ。日本国内だけでなく、日本人野球選手が活躍しているアメリカのMLB(プロ野球のメジャーリーグ)や、サッカーのワールドカップ、オリンピックなどもすべてリアルタイムで見られ、スポーツ観戦はとても人気がある。
日本では試合で勝つことも大切だが、スポーツをすることで人間として成長することが、それと同じぐらい大切だと考えられている。例えば、日本の国技の相撲では、力士が相手力士に勝った時、土俵の上で笑顔を見せたりガッツポーズをしたりするのは、いいことだと思われていない。だから、勝って嬉しくて大声で叫びたい時でも、敗けてくやしい時でも、土俵の上でその気持ちを表現したり、試合の後のインタビューでべらべら話したりすることはあまりしない。もちろん、相手を笑ったり、ばかにしたジェスチャーをするなどは、絶対にしてはいけない。
柔道や剣道、空手や合気道など、日本に昔からある武道では、まず「礼に始まり礼に終わる」という考え方が大切だと教えられる。そして、この考え方は、武道がスポーツとして世界中で楽しまれるようになった今でも、変わっていない。例えば、武道を習う人は、まず道場に入る前に、道場に向かって礼をする。そして、練習が始まる前には、先生に向かって礼をする。練習する相手とも、お互いに礼をし合ってから始め、終わった時にも礼をする。そして道場を出る時も、礼をしなくてはいけない。この礼は、挨拶のためだけにするのではなく、相手に向かって尊敬や感謝の気持ちを表すという意味が含まれているのだ。そのため、子供が礼儀正しい人間に育つように、子供を武道の道場に通わせる親もいる。
日本のスポーツでは、「心・技・体」という考え方もとても大切だ。「心」は精神力、「技」は技術、「体」は運動能力のことで、どんなスポーツでもこの三つがなければ上手にはならないと考えられている。「心」には強い精神力という意味の他に、人が人として持たなければならない「心」という意味が含まれている。日本のプロ野球で9年間プレーをして、今はアメリカのMLBで活躍しているある選手は、インタビューに答えて、バッターが三振をした後に自分のバットを折ってしまったり、ピッチャーが打たれた後にグローブをロッカーに投げたりするのを観ると驚く、それを作ってくれた人達のことを考えたら、僕はそんなことは絶対にできないと言っている。試合や練習が終わって彼が一番最初にするのは、使ったバットやグローブやスパイクの手入れだそうだ。彼にとっては、野球のプレーだけではんかう、彼に野球をさせてくれるものや、その後ろにいる人達も、とても大切なのだろう。その他、日本のプロ野球では、ピッチャーがバッターにデッドボールを与えてしまったら、帽子を取ってバッターに謝るが、これも心を大切にする礼の一つだと言えるのではないだろうか。
1984年のロスアンジェルス・オリンピックで金メダルを取った柔道の山下泰裕選手は、若い選手達を育てる時にこんなことを言うそうだ。「バスや電車に乗っている時に、お年寄りや赤ちゃんのいる女性などが乗ってきたら、すぐに立って席を譲る、誰かが重い物を持っていたら代わりに持ってあげる、困っている人がいたら迷わず助けてあげる。道場で学んだことをそういうところで生かすのが柔道の精神なんだよ。」山下選手はこの考え方を「柔道の精神」だと言っているが、実は彼の言葉は、日本人のスポーツについての一般的な考え方をわかりやすく表していると言えるだろう。日本人にとってスポーツで大切なことは、試合に勝つことや健康になることだけでなく、「礼」や「心」などの考え方も学ぶことなのである。

五課

第5課 日本の食べ物

読み物 「インスタントラーメン発明物語」

世界中の人々に広く親しまれている食べ物、インスタントラーメン。世界らラーメン協会のデータによると、2007年に全世界で消費されたインスタントラーメンは、978.7億食だそうです。世界で一番インスタントラーメンを食べる国は中国で501.1億食、その次はインドネシアの149.9億食、日本の54.6億食、アメリカの42.4億食、ベトナムの39.1億食、韓国の32.2億食と続きます。一人当たりの消費量が最も多いのはインドネシアで、インドネシア人一人が食べたインスタントラーメンは一年に約65.2食ということです。日本では、一年に一人当たり約42.0食を食べています。
インスタントラーメンには袋入りラーメンとカップラーメンがありますが、多く食べられているのは、カップラーメンの方です。皆さんも一度は食べたことがあるのではないでしょうか。カップにお湯を注いで3分待てば食べられるカップラーメンは、値段の安さ、簡単さ、種類の多さなどで、特に若者に人気が高く、一人暮らしをしている日本の大学生の中には、カップラーメンに毎日のように、お世話になっている人もいると聞きます。
現在、東南アジアをはじめ南米、ヨーロッパ、アフリカなど世界80か国以上の国で食べられているカップラーメンですが、皆さんはこれが日本でできあということを知っていましたか。カップラーメンは、今から30年以上も前に安藤百福という人によって発明されました。安藤が一番初めに作ったカップラーメンは「カップヌードル」と言います。
安藤は「カップヌードル」を発明する13年前に、世界で初めて袋入りのインスタントラーメンも考えた人で、「ラーメンの父」と呼ばれています。1910年に生まれた安藤は、戦後あまり食べ物がない時代にラーメンの屋台の前に人々が長い列を作っているのを見て、家でお湯さえあればすぐ食べられるラーメンを作りたいと思ったそうです。何回も失敗をくり返しましたが、48歳の時、ついに「チキンラーメン」という袋入りインスタントラーメンの商品化に成功し、そのラーメンは大ヒットしました。ところが、安藤の成功を見て他の会社でもインスタントラーメンを作り始めたため、二年ぐらいの間にインスタントラーメンを作る会社の数がとても増えて、競争が激しくなってしまいました。それで、安藤は日本国内から世界に目を向けたのです。
「おいしさに国境はない」と信じた安藤は、インスタントラーメンは国際的な商品になるに違いないと思いました。しかし、文化が違えば、食習慣も違います。例えば、日本人は箸でラーメンを食べますが、箸を使わない国の人達もいます。「文化、伝統、習慣の違いを理解しなければ、国境を越えられない」と考えた安藤は、インスタントラーメンを世界に広げるヒントを見つけるため、1966年にアメリカに行きました。そして、この旅行で得たヒントをもとに、5年後にカップラーメンを作り出したのです。
 では、カップラーメンがどうやって生まれたか、この話の続きは、マンガで読んでみましょう。

六課

第6 課 日本人と宗教
読み物1 「いろいろな神様」

日本語には「苦しい時の神頼み」という言葉がある。何か苦しい事や困った事があると、「神様、仏様、どうか助けてください」と言って一生懸命お願いするけれど、何もない時は、神様や仏様のことはあまり考えていないという意味である。また、家の中に神棚と仏壇のどちらも置いてあって、朝晩、神様と仏様の両方にお祈りする人々もいる。神道も仏教も共に生活の中にあるのだ。一つの神だけを信じている一神教の人がこのことを聞いたら、どうして神様と仏様を同時に祭ることができるのか不思議に思うかもしれない。

日本人の生活を見ると、神棚と仏壇の他にも、もっと色々な宗教的習慣や行事があることに気がつくだろう。まず、お正月には「初詣」といって、人々は神社やお寺にお参りに行き、お守りやお札をもらう。そして、それを車につけたり財布の中に入れたりして、不幸が起きないように、幸福が来るようにと願う。2 月には「節分」という行事があって、「鬼は外、福は内」と大声で叫びながら、豆をまく。これは、幸福は家の
中に、不幸は外に、と祈る行事だ。また、春と秋のお彼岸や、8 月のお盆は、先祖を敬う日として、多くの人がお墓参りに行く。

その他、11 月には七五三という行事があり、男の子の場合は3 歳と5 歳、女の子の場合は3 歳と7 歳になると、親が子供を神社に連れて行く。元気な子供に育ったことを神様に感謝し、そして、これからも健康に育つようにと神様に祈るのだ。

12 月には、クリスマスの行事を楽しむ。キリスト教信者ではない人でも、クリスマスツリーを飾ったり、クリスマスプレゼントを交換し合ったりして、クリスマスを祝うのだ。また、結婚する時には、式を教会で挙げる人もいれば、お寺や神社で挙げる人もいる。そして、死んだら、たいてい仏教式のお葬式をしてもらって、お墓に入る。

日本では、なぜこのようにいろいろな宗教がともに存在することができるのだろうか。これは、日本に昔からある神道について考えてみれば、分かるかもしれない。神道というのは多神教で、日本では昔から海や山や木や石など、周りの色々な物や場所に神様がいると考えられてきた。720 年に書かれた「日本書紀」という古い歴史の本には、そんな神々についての物語がたくさんある。その神話の中の神様達は、楽しく歌ったり踊ったり、時には怒って喧嘩したりして、とても人間的だ。日本全国にはそんな神様を祭った神社がたくさんあって、日本人は何かがあると、その色々な神様のところにお参りに行く。

例えば、家やビルを建てる時は土地の神様に、いい高校や大学に合格したい時は受験の神様に、恋人が欲しい時は縁結びの神様のところに行ってお祈りをする。目的によって、それぞれお参りに行く神様が違うのだ。最近では、インターネットビジネスのための「IT の神様」なんていう神様も現れ、人気を集めているらしい。

このように、神道は、自然や場所、物など、あらゆるところに神様が存在するという日本人の宗教的意識を作ったと考えられる。だから、外国から他の宗教や新しい神様が入ってきても、自然に受け入れられたのかもしれない。そして、神道が人々の生活の中で生き続けてきたように、仏教やキリスト教の行事なども、日本人の生活の一部になっているのだ。

宗教についてのある調査で、「あなたは何か宗教を熱心に信じていますか」という質問に「はい」と答えた人は、日本国民全体の9%だけだったらしい。それでは、91%の人は、宗教を全然信じていないかというと、そうではないだろう。日本人は、 宗教を強く信じているという意識はなくても、毎日の生活の中で、お参りしたり祈ったり祝ったりするなど、宗教的習慣や行事を大切にしている。そして、そんな人々の生活が、神様や仏様が一緒に存在できる社会を作っていると言えるのではないだろうか。

第6 課 日本人と宗教
読み物2 「日本の神話:天の岩戸」

日本の神話には、ギリシア神話のように、人間的な神様がたくさん出てきて活躍する面白い話が多く残っている。その中に天照大神という神様についての有名な話がある。どんな話かちょっと読んでみよう。

昔々、大昔、日本には天照大神という、神様の中で最も偉い太陽の神様がいて、高天原という昔の日本を治めていました。天照大神には須佐之男命とという弟の神様がいたのですが、須佐之男はとても乱暴で悪いことばかりするので、人々はとても困っていました。

ある日、須佐之男は天照の侍女を間違って殺してしまいました。それを知った天照は弟の乱暴に怒って岩の中に隠れてしまい、昼だった世界は急に夜のように暗くなってしまいました。太陽の神様の天照が岩の中にいて外に出てこないため、世界は何日も真っ暗な日が続きました。困ってしまった他の神様たちは、天照に岩の外に出てきてもらおうと彼女が隠れいている岩戸の前でお酒を飲みながら歌ったり踊ったり笑ったりして、大騒ぎをしました。そうすれば、天照がみんなは何をしているんだろうと思って外に出てくると考えたわけです。神様達は、真っ暗な中で、一生懸命歌ったり踊ったり、笑ったりしました。

外の大騒ぎを不思議に思った天照が少しだけ岩戸をあけて見ると、その瞬間を待っていた力持ちの神様が岩戸を全部あけて、天照を岩の外に出してしまいました。天照が外に出てきたので、世界は明るくなって、また昼が戻ってきたそうです。

この話は、昔の人が「日食」を説明するために作った神話ではないかと言われている。何も知らなかった昔の人々にとって、日食はとても怖いことだったのだろう。また、この神話からも分かるように、昔から神様は日本人にとって、人間と同じように笑ったり怒ったり喧嘩したりする親しみやすい存在だったのだ。

この天照大神を祭る神社は、日本全国に18,000 ぐらいあると言われていて、毎年多くの人々がお参りに訪れる。天照大神は21 世紀の現在でも大忙し!ということだ。

七課

第7課 日本のポップカルチャー
読み物1 「マンガの神様:手塚治虫」

 今、世界中で日本のマンガ、アニメ、ゲーム、キャラクタークッズ、Jポップなどのポップカルチャー・ファンが増えている。海外で「MANGA」といえば日本マンガのことを、「ANIME」と言えばディズニーなどのアニメーションではなく日本アニメのことをいう。また、日本で生まれたテレビゲームも「VIDEOGAME」として世界中に広まった。日本のポップカルチャーは、さまざまな国の経済や文化やファッションに影響を与え、ビジネスとしても大きいマーケットになっているのだ。
 では、そのポップカルチャーの元になっているものは何だろうか。それは、日本のストーリーマンガだと言えるかもしれない。今、日本のストーリーマンガは世界中で楽しまれていて、アジア、オセアニア、ヨーロッパなどいろいろな国の言葉に翻訳されて本になり、読者を広げている。そして、多くのアニメやテレビ番組やゲームなどがマンガの原作を元にして作られるため、マンガ、アニメ、映画、ドラマ、ゲームなどのファンがそれぞれお互いに影響を与えながら、ファンを増やしている。日本のストーリーマンガはメディアコンテンツとして、大きいビジネスになっているのだ。
 その上、日本のマンガは欧米人の本の読み方さえ変えようとしている。アメリカでは2002年に、日本の少年マンガ週刊誌、次の年には少女向けのマンガ週刊誌が出版された。それまで、欧米の本や雑誌は右から左にページをめくる読み方が一般的だったが、マンガファンの「右上から左下に読む日本のマンガと同じスタイルにして欲しい」という要望で、アメリカで売られる日本のマンガ雑誌も、日本と同じように左から右にページを開く方式で作られるようになったのだ。
 それでは、日本マンガの魅力は何だろうか。そのことを考える時、一番初めに思い浮かぶのが手塚治虫の名前だ。昔は日本でも、マンガは子供のためのものと思われていたが、手塚はそれを小説や映画と同じような物語の表現方法の一つとして確立し、大人でも楽しんで読めるものに変えた。現在の日本ストーリーマンガの元を作ったのだ。
 手塚治虫は第二次大戦後、医学部を卒業して医学博士になったが、医者にはならずに漫画家になった。そして、1989年に60歳で亡くなるまで700以上の作品を残した。本名は治だが、子供のころから虫が好きだったので、ペンネームを治虫にしたそうだ。ベレー帽をかぶり丸い眼鏡をかけた丸い鼻がトレードマークで、彼のマンガには、自分と同じような人物がよく出て来る。
 手塚が描いたマンガの中で初めてテレビアニメになったのは、「鉄腕アトム」という少年ロボットが活躍するSFマンガだ。60年代に子供たちの人気を集め、その後の日本のSFアニメブームのきっかけになった。アジアの国々や、ヨーロッパ、アメリカのテレビでも放送されたので、知っている人も多いはずだ。その他にも、『ジャングル大帝』『リボンの騎士』『どろろ』『火の鳥』『ブッダ』『ブラックジャック』『アドルフに告ぐ』など、アニメや映画になったり、世界中の言葉に翻訳された手塚作品はたくさんある。
 手塚のマンガには、宗教、哲学、医学、芸術、歴史、SF、宇宙、自然など様々なテーマがあり、難しい言葉や理論ではなくて、面白くて楽しい絵と分かりやすい言葉で、命の大切さ、自然の大きさ、戦争の無意味さ、人類の未来などについて教えてくれる。手塚のマンガの特徴であるオノマトペがたくさん入ったマンガを笑いながら読んでいるうちに、読者は人間が生きることや死ぬことについて深く考えさせられてしまうのだ。
 手塚が素晴らしいのは、マンガを描くだけでなく、自分の後に続く漫画家たちも育てたことだ。彼は漫画家になるのを夢見て自分のところに集まって来た若者に、住む場所や仕事の世話などをして、多くの漫画家を育て、世の中に送り出した。そして、手塚や手塚に育てられた人たちのマンガを読んで、次の世代の漫画家たちが育っていった。現在の日本人マンガで手塚の影響を受けていない人はいないはずだ。人々は、愛情と尊敬と、人間を超えた才能を持った人という気持ちを込めて、手塚治虫を『マンガの神様』と呼ぶ。もし、手塚治虫が存在しなかったら、今のアニメやマンガのブームはなかったかもしれない。手塚の残したものが、今、世界中に影響を与えていることを、彼は空の上でどう思っているのだろうか。

第7課 日本のポップカルチャー
読み物2 「日本語のオノマトペ」

 「雨がザーザー降る」とか「赤ちゃんがよちよち歩く」というおもしろい言葉を聞いたことがありますか。こんな言葉を使ったことがありますか。「ザーザー」や「よちよち」のような音や様子を表す言葉をオノマトペと言います。日本語のオノマトペには、擬声語=動物や人間の声を表す言葉、擬音語=物の音を表す言葉、擬態語=動作や様子を表す言葉、の3つの種類があります。次の言葉はどの種類に入ると思いますか。
1. 犬がワンワン(と)ほえる 
2. チャイムがピンポン(と)鳴る
3. お腹がすいてぺこぺこだ
4. 水をごくごく(と)飲んでいる
5. 待たされてイライラした
6. ドアがバタンと閉まった

日本語は、オノマトペが世界一多い言葉だと言われていますが、どうしてこんなに多く使われるのでしょうか。実は、日本語はもともと動詞の数が少ない言葉で、例えば「笑う」という動詞に当たる言葉は「笑う」しかありませんが、英語にはlaugh、smile、giggle、grin、guffawといろいろあります。この英語を日本語で表わすとそれぞれ「笑う」「にっこり/にこにこ笑う」「クスクス笑う」「にやりと笑う」「げらげら笑う」となり、「笑う」の前にオノマトペをつけて表現することになります。オノマトペは動詞にバリエーションをつけるために使われる表現なのです。また、オノマトペはフォーマルな場面で話す時や文を書く時にはあまり使われないという傾向もあります。
 ところで、オノマトペがとてもたくさん使われているのが、日本のマンガです。次のページのマンガにあるそれぞれのオノマトペは、どんな様子を表しているのでしょうか。ちょっと考えてみてください。2番目の「シーン」というのは、音のない様子を表した言葉で、漫画家の手塚治虫が作ったと言われています。世界16か国で読まれている日本の人気マンガ「ワンピース」の中で「シーン」という言葉がどのように翻訳されているかを見てみると、英語版ではHMMMMMと全然違う意味になっていて、スペイン語版では何も書いていないそうです。中国語や韓国語やアラビア語では何と書いてあるのでしょうか。みなさんは「シーン」を自分の国の言葉で表現するとしたら、どんな言葉を使ってみたいですか。
 オノマトペはおもしろくて簡単そうに見えますが、実は、使い方にはとても複雑なルールがあるのです。例えば、初めに挙げた例を見てください。動詞の前に「と」があるものとなくてもいいもの、「する」と一緒に使われるもの、ひらがな書きとカタカナ書きのものなど、いろいろな例がありますね。また、清音か濁音かでもイメージが違ってきますし、長音があるか、小さい「っ」があるかでも、聞いた感じはずいぶん変わります。下の例の右と左ではどんな違いを感じますか。

例: ころころvsごろごろ し〜んvsしん
   さらさらvsざらざら ブーブーvsブッブッ
   しとしとvsじとじと ワッハッハvsハハハ

 オノマトペが上手に使えるようになると、もっと日本語らしい話し方になります。それから、いい言葉が見つからない時に、イメージを音に置き換えて表現することで、こちらの言いたいことが相手に伝わることもあります。みなさんも機会があったら、「どんどん」オノマトペを使ってみてください。

<Onomatopoeia (Japanese -- English)>

八課

第8課 日本の伝統芸能
読み物 「狂言と笑い」

 日本語では、笑いは様々な表現で表わされます。例えば、大声で笑う時は「ゲラゲラ」笑い、恥ずかしそうに小さい声で笑う時は「クスクス」笑います。他にも「きゃっきゃっ」と笑ったり、「ワハハ」と笑ったりしますが、みなさんは、これらの「笑い」には不思議な力があることを知っていますか。実は、「笑い」は人間の健康と深い関係があり、その効果は科学的にも証明されているのです。
 糖尿病(diabetes)という病気は、血液中の「血糖値(the blood-sugar level)」が高くなることによって起こる病気ですが、ある科学者が、おもしろい話を聞かせた後の患者と難しい講義を聞かせた後の患者の血糖値を比べるという実験をしてみたそうです。すると、難しい講義を聞いた後では平均123ミリグラムも上がった血糖値が、おもしろい話を聞いて笑った後では、平均77ミリグラムしか上がらなかったという結果が出たそうです。
 また、血液の中には、「キラー細胞(Natural killer cells)」と呼ばれるユニークな名前の細胞があります。この細胞は名前の通り、ウイルスや癌細胞を壊す力を持っていて、キラー細胞が増えれば増えるほど、多くの悪い細胞が減るのですが、笑いには、このキラー細胞を増やす効果があるということも分かりました。
 さて、人間の健康にとって大切な行為である「笑い」、これを取り入れた日本の伝統芸能と言えば、一番に「狂言」が挙げられます。「狂言」というのは、歌や踊りがあまりない、言葉を中心とした劇で、14世紀ごろに劇の形が完成しました。「狂言」には、主人と家来、親と子、山伏などいろいろな人物が登場しますが、どの人物もどこにでもいる普通の人達ばかりで、スーパーマンのような超人的なヒーローは出てきません。また、悲劇の主人公のような人物も出てきません。この普通の人たちが、失敗したり、嘘をついたり、困ったりする様子を、言葉や動作でユーモラスに表現しているのが狂言です。
 また、狂言には、話の途中で強い人と弱い人の立場が逆になってしまうという風刺的なおもしろさもあります。例えば、「主人」は自分の「家来」に簡単に騙されてしまいますし、偉そうにしていた「親」が「子供」にからかわれたり、超人的な力を持っているはずの山伏が実際は無力で弱かったりするという話がたくさん出てきます。
 昔の日本は身分の差が大きく上下関係は厳しいものでした。しかし、狂言の中では、身分が高くて立派だと思われている人がバカなことをして、身分が低い人に笑われてしまいます。昔の人々は狂言の中に、偉い人たちや超人的な人が自分たちと変わらない普通の人として描かれている点に、おもしろさを感じたのではないでしょうか。
 代表的な狂言のひとつ、「ぶす」と言う話を紹介しましょう。ある日、主人が二人の家来に、自分の留守中に、「ぶす」という名前の恐ろしい毒が入っている桶には絶対に近づかないようにと言って出かけます。しかし、「見てはいけない」と言われると、ますます見たくなってしまうのが人間。この二人も我慢できなくなって桶のふたをあけてみました。すると、桶の中から、甘くておいしそうな匂いがしてきました。実は、桶に入っていたのは「おそろしい毒」ではなくて「甘くておいしい黒砂糖」だったのです。もちろん、二人はそれを全部食べてしまいました。
 さて、二人は、主人に謝ったと思いますか。いいえ、逆に二人は、主人が大切にしていた掛け軸を破ったり、高い茶碗を割ったりしました。そして、主人が帰って来ると、泣きながら、「大変悪いことをしてしまったので、ぶすを食べて死のうと思ったけれど死ねなかった」と言いました。出かけている間に黒砂糖を食べられないように、毒だと言って、家来をだまそうとした主人。しかし、逆に家来に黒砂糖を全部食べられてしまっただけでなく、大事な掛け軸を破られ、高い茶碗も割られてしまったのです。
 皆さんはこの話のどんなところがおもしろいと思いますか。皆さんの体の中のキラー細胞は増えたでしょうか。このように「笑い」は伝統芸能の中にも生きています。そして、芸術の中の「笑い」も、毎日の日常生活の中で生まれる「笑い」も、効果は同じです。皆さんも、身近な健康法として、「笑い」を見直してみませんか。

第8課 日本の伝統芸能
ストーリーを話す:モニカが狂言「くさびら」のストーリーを発表する

 今日は、日本の伝統芸能の一つである「狂言」の中の「くさびら」という話を皆さんに紹介したいと思います。この「くさびら」は、家の中にきのこがどんどん生え出してきたので、困ってしまった村人が、山伏にきのこを消してもらおうとする話です。山伏というのは、山で仏教の修行をしている人のことで、登場人物は、村人と山伏ときのこです。
では始めます。

 ある日、突然、村人の家の中に、きのこがニョキニョキ生えだしました。びっくりした村人は、きのこを一生懸命抜きましたが、一本抜くたびに、また新しいきのこが、ニョキニョキ生えてきてしまいます。困った村人たちは山伏にお願いして、助けてもらうことにしました。自分には特別な力があると信じている山伏は、「私が祈って、きのこを消してあげよう」と言って村人の家にやって来ました。
 ところが、このきのこはただのきのこではなく、目や鼻や手足のようなものがついているのです。これを見た山伏はとても驚きましたが、きのこを消すために「ボロンボロ、ボロンボロ」と祈り始めました。しかし、山伏が祈れば祈るほど、消えるはずのきのこが消えずに逆に増えてしまいます。山伏は一生懸命祈りましたが、きのこはどんどん増え続け、とうとう家じゅうがきのこでいっぱいになってしまいました。それでも、山伏が祈り続けていると、今度はきのこたちが動き出し、「かみつくぞ。かみつくぞ。」と言いながら山伏を追いかけ始めました。
 山伏は怖くて怖くて、祈ってなんかいられません。そして、とうとう、「助けてくれ、助けてくれ。」と言いながら逃げ出してしまいました。おしまい。

九課

第9課 日本の教育
読み物 「日本の教育の現状」

 みなさんの国の教育制度は、現在、どのような制度になっていますか。どんないい点、どんな問題点がありますか。自分たちが受けてきた教育に満足していますか。この化では、教育について考えてみましょう。まず始めに、日本の教育制度や現在の状況について紹介しますので、そのあとで皆さんの国の教育について話し合ってみてください。

 日本の教育制度は6・3・3・4制と言われ、小学校が6年、中学校が3年、高校が3年、そして、大学が4年となっている。それぞれに公立と私立があり、小学校と中学校は義務教育だが、高校から行っても行かなくてもいい。しかし、高校進学率は約98%なので、実際には高校に行かない人はほとんどいない。4年の大学への進学率は大体50%ぐらいだが、短大や専門学校への進学率も含めると80%近くの高校生が、上の学校に進む。義務教育の後でも進学率が高い日本だが、教育の現状には問題点も多く、特に以下の3つのことが挙げられる。

1. 「学歴社会」と「受験戦争」
2. 「いじめ」や「登校拒否」
3. 「偏差値教育」対「ゆとり教育」

1番の「受験戦争」というのは、文字通り、中学や高校や大学の入学試験に合格するための競争は戦争のようだという意味だ。入学試験は普通一年に一回しか受けられない。生徒たちはその一回のチャンスのために、学校の後も塾に通ったりして、一生懸命勉強する。そして、大学の入学試験に失敗した高校生は、もう一度次の年の試験に挑戦するために「浪人生」になることが多い。「浪人」というのは、もともと「主人のいない侍」のことを意味したが、今は、希望の大学に入れなかったために予備校に行ったりしながら受験勉強をしている人たちのことを指す。その他、受験の厳しさを表す言葉には「四当五落」や「受験地獄」という表現もある。前者は、毎日4時間しか寝ずに勉強すれば大学に合格できるが、5時間以上寝たら試験に落ちるという意味、後者は、受験で苦しむのは地獄のようだという意味だ。そんな受験生がいる家庭では、家族も必死に協力する。自分たちが見たいテレビを我慢したり、夜中まで勉強する子供のために夜食を用意したりして、受験生が勉強しやすい環境を作るのだ。また、受験に縁起の悪い言葉「すべる」「落ちる」などは使わないように気をつけ、受験の神様が祭ってある神社に行って合格を祈るといったことをする。

では、どうして日本ではこのような厳しい受験の状況が生まれたのだろうか。理由の一つとして「学歴社会」が挙げられるだろう。日本では、有名大学出身者はいい会社に就職しやすく、地位も早く上がり、給料もたくさんもらえるという傾向があるのだ。一方、あまり有名ではない大学を出た人、あるいは、大学に行っていない人は、どんなに能力のある人でも、能力のあることをなかなか認めてもらえない。つまり、学歴社会とは、その人がどんな学校を卒業したかによって人生が決まる社会、いい大学に入れば将来の幸せも約束されるという社会なのだ。そこで、親たちは自分の子供を塾に行かせ、受験をしなくても有名私立大学に進めるエスカレーター式の小学校や中学校に入れようとする。2008年の文部科学省の統計では、小学生の約37%、中学生の約62%、高校生の約43%が塾に通っているそうだ。

このような現状がある一方、今のような学歴社会をいいことだとは思っていない日本人もたくさんいる。子供が学校や塾の勉強で忙しすぎて、子供らしく外で遊ぶ時間がないことを心配する人、学歴だけで能力を判断されることをよくないと思っている人は多い。日本では以前は、首相になる人はほとんど東大出身者ばかりだったが、最近は東大出身者以外の人も首相になるようになった。このことを歓迎する人が多いのも、学歴社会が決してよく思われていないからだろう。

2番目の問題は「いじめ」と「登校拒否」だ。「いじめ」ではひどい場合は、いじめられた子供が自殺してしまうことさえある。「登校拒否」というのは、いじめられたとか学校の勉強についていけないという理由で、学校に行かなくなってしまうことだ。これらの問題の原因はたくさんあって複雑だが、日本社会の「他人と同じようであることが求められる」「他人と違うことがあまりいい頃だとは思われない」という意識と受験教育のプレッシャーが、いじめや登校拒否を引き起こす主な原因だと言われている。

上に挙げたような問題から、日本の教育制度を見直そうと1980年代に「ゆとり教育」が取り入れられた。しかし、これが別の大きな問題を生み出す原因になってしまった。「受験のために偏差値(入学試験での合格の可能性を表す数字)をあげることを目的とした教育」に対して、「もっと子供たちの心を成長させるプレッシャーのない教育」という考えではじめられた「ゆとり教育」が、日本の子供たちの学力の低下を引き起こしてしまったのだ。以前は、世界でもトップレベルだった学力が、今ではとても低くなってしまい、アジアの国で4番目か5番目くらいにまで下がってしまった。ゆとり教育で学校で教える内容が減らされたため、その教育を受けた子供たちは常識的にだれでも知っているはずのことでさえ知らないという現象も出てきた。例えば、円周率は一般的には3.14だが、「ゆとり教育」では円周率は3まで覚えておけばいいというようなことを始めたのだ。その結果、自分の子供たちの学力低下を心配した親達は、いい大学に合格するためには義務教育だけに頼ることはできないと思い、ますます子供を塾に送るようになった。悪循環と言えるだろう。そこで、2007年に「ゆとり教育」が見直されることになり、現在、文科省で新しい教育の方法が話し合われている。

以上、述べたように日本の教育には様々な問題が存在するが、いい点もある。それは、日本国民である限り、誰でも、どこに住んでいても、どんな状況でも、義務教育がきちんと受けられるということだ。日本語の読み書きは大変難しいにもかかわらず、文字を読んだり書いたりできない日本人はほとんどいないし、計算ができない人も0%に近い。

また、義務教育で使われる教科書は全部、国の検定を受けていて、日本国民に与えられる基本的な教育には、住むところなどで大きい差は出ない。誰でも教育が平等に受けられるというのは、日本の教育制度のすばらしい点の一つだ。問題はいろいろあるが、全体的には日本の教育レベルは高いと言えるだろう。

教育の問題はどの国でも最も難しい問題の一つで、なかなかいい解決方法は見つからないようだ。これを機会に皆さんも自分の国の教育を見直して、いい点と問題点を挙げ、できればどうやって解決したらいいかも考えてみてはどうだろうか。